「それ、WordPressじゃダメなんですか?」──簡単以外の答えを、正直に書きます

先日、知人にサイトを見せたら、こう聞かれました。
「これって、WordPress じゃ作れないの?」
作れます、と答えたら、続けてこう来ました。
「じゃあこれの良さは? 簡単以外で。」
いい質問です。ただ、この質問には隠れた前提があります。「WordPress =簡単な選択肢」という前提です。
かつては、その通りでした。でも 2026 年のいま、それはもう成り立っていません。

WordPress が 4 割を取ったのは、正当な理由があった
先に事実を置きます。WordPress は全ウェブサイトの約 41.2%、CMS を使うサイトに限れば約 59.1% を占める、世界最大の CMS です(W3Techs、2026 年 7 月時点)。
4 割は伊達ではありません。2010 年代、これは圧倒的に正しい選択でした。
- 管理画面から誰でも更新できる。それ以前は HTML を書き換えるしかなかった
- プラグインで機能が足せる。予約もフォームも EC も、ゼロから作らずに済む
- 触れる人が多い。制作会社を乗り換えても次が扱える
特に 1 つ目は革命的でした。「非エンジニアが自分でサイトを更新できる」という選択肢が、他になかったからです。
問題は、その前提が変わったことです。
2026 年、WordPress は両側から挟まれた
いま WordPress は、得意だったはずの領域を、両方から削られています。
「簡単さ」の側から —— STUDIO のようなノーコードツールが出てきました。日本発で、日本語 UI、コードを一切書かずにデザインから公開まで完結し、CMS も共同編集もレビュー機能も付いています。サーバー契約もドメイン取得も要らず、無料プランでも公開できる。
デザインの自由度も、いまやノーコードの方が上という評価が一般的です。WordPress でテーマを選び、ページビルダーを入れ、CSS を調整して……という作業をしなくても、ドラッグ操作で思った通りの見た目になる。
「速度と安全性」の側から —— 静的サイト(あらかじめ HTML を書き出しておく方式。当サイトもこれです)が現実的になりました。表示は速く、サーバー側に動くプログラムがないので攻撃対象がそもそも存在しない。
つまり WordPress は、「簡単さ」ではノーコードに負け、「速度と安全性」では静的サイトに負けている。かつて両方をそこそこ満たす唯一の選択肢だったものが、それぞれの専門に挟まれて、中途半端な位置に落ちた——これが 2026 年の構図だと思っています。
そして、WordPress 固有の負担は残り続ける
位置取りの話だけではありません。WordPress を選ぶと、他の方式には存在しない負担が付いてきます。
プラグインという、構造的な穴
WordPress の弱点は本体ではありません。本体(コア)の脆弱性はプラグインやテーマに比べて数が少なく、更新していれば侵入リスクは低いとされています。問題はプラグインとテーマです。
数字を見てください。セキュリティ情報を毎週まとめているサイトによれば、ある 1 週間だけで 83 件のプラグインに脆弱性が報告され、うち 28 件はインストール数 5 万件以上の広く使われているものでした。
これは特別な週ではありません。毎週、この規模で出続けています。
理由は構造的です。WordPress はオープンソースでコードが公開されており、膨大なプラグインが「入り口」を大量に生み出している。ひとつ穴を見つければ大量のサイトを攻撃できるので、攻撃側にとって費用対効果が最も高い標的になります。
そして厄介なのは、これがあなたの選択の結果ではないことです。良かれと思って入れたフォームプラグインが、2 年後に脆弱性を抱える。開発が止まって放置される。自分の落ち度がなくても、穴が開きます。
更新のジレンマ:しないと危険、するとと壊れる
WordPress が公式にサポートするのは、最新のメジャーバージョンのみです。2026 年 7 月時点の最新は 7.0 で、それ以前は公式サポートの対象外。
つまり WordPress サイトは、作って終わりではありません。本体・テーマ・プラグインを更新し続ける義務が発生します。
ところが、更新にはそれ自体のリスクがあります。プラグインを更新したら表示が崩れた、他のプラグインと競合して管理画面が開かなくなった——珍しい話ではありません。
結果どうなるか。怖くて更新できず、放置される。 そして既知の穴が開いたまま、何年も公開され続ける。
この構図に、心当たりのある方は多いと思います。
「誰でも更新できる」の、実態
WordPress の最大の売りは「管理画面から誰でも更新できる」ことでした。
でも実際の現場を見ると、こうなっていることが多いのではないでしょうか。
- 管理画面が複雑で、どこを触ればいいか分からない
- 触ったら壊れそうで怖いので、結局制作会社に頼む
- ページビルダーの操作を覚える必要があり、それ自体が学習コスト
- 更新できる人が 1 人しかおらず、その人が異動したら誰も触れない
「誰でも更新できる」は、理論上の話になっていることが少なくありません。そしてノーコードツールは、まさにここを突いて伸びています。
プラグインの堆積は、技術的負債そのもの
3 年運用した WordPress サイトの管理画面を開くと、たいていプラグインが 10 個以上入っています。そして——誰が、何のために入れたのか、分からないものが混ざっている。
消していいのか判断できないので、消せない。更新すると壊れるかもしれないので、更新もできない。技術的負債の記事で書いた「もう誰も手をつけられないシステム」が、Web サイトでも起きます。
「安く作れる」は、「安く保てる」ではない
WordPress は初期費用を抑えやすい選択肢です。テーマもプラグインも既製品が使えるので、ゼロから作るより安い。
ただし、そこには保守費用が乗り続けます。更新作業、動作確認、トラブル対応。制作会社に保守契約を結べば月額が発生し、結ばなければ自社で更新の責任を負う。
初期費用の安さだけを見て発注すると、バイブコーディングの記事で書いた通り、支払いが後ろにずれるだけになります。
3 つの方式を、正直に比べる
| ノーコード(STUDIO 等) | WordPress | 静的サイト | |
|---|---|---|---|
| 非エンジニアの更新 | いちばん簡単 | 管理画面の学習が要る | 仕組みを用意しないと難しい |
| デザインの自由度 | 高い(直感的) | テーマ+調整が必要 | 自由(作り込める) |
| 表示速度 | 速い | 手を入れれば速くできる | もともと速い |
| 攻撃される面 | 提供元が管理 | プラグイン・テーマ・本体 | サーバー側に動くものがない |
| 公開後の手間 | ほぼ不要 | 定期的な更新が必須 | ほぼ不要 |
| 月額コスト | 数千円〜 | サーバー+保守 | ホスティングは安価〜無料 |
| 複雑な機能 | 外部サービスの追加が必要 | プラグインで幅広く対応 | 都度作る |
| 乗り換え | 移行は困難 | 触れる人が多い | 作り方による |
よく挙げられる「WordPress のままでいい理由」を、検証する
ここで、現場でよく聞く 4 つの理由を、正面から検証させてください。
| よく言われること | 実際のところ |
|---|---|
| 問題が起きていないから大丈夫 | 正常性バイアス。侵入は静かに起きる |
| 社内に扱える人がいる | それは属人化。その人が抜けたら誰も触れない |
| 複雑な機能が要る | ノーコードで足りることが多い。「無料プラグイン」の原価は保守 |
| 記事を大量に出すから | 出力される HTML の制御権は、静的サイトの方が上 |
順に説明します。
「問題が起きていない」は、根拠になりません
これは正常性バイアスです。「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫」という、災害の場面でよく指摘されるあの思考です。
Web サイトへの侵入は、多くの場合、静かに起きます。トップページが真っ黒になって「ハッキングされました」と表示されるのは、むしろ例外的な形です。実際に多いのは——
- 検索エンジンにだけ見える形で、無関係なリンクや文章が埋め込まれる(見た目は正常なまま)
- 裏口(バックドア)が仕込まれ、後日使われるのを待っている
- フォームの送信内容が、静かにどこかへ送られている
気づいていないだけという可能性が、常にあります。「問題が起きていない」を確認するには、実際に調べる必要があります。何も起きていないように見える、では確認したことになりません。
「扱える人がいる」は、このブログが繰り返し批判してきた状態です
これは強い理由に見えて、実は逆です。
「社内に WordPress を扱える人がいる」を言い換えると、「その人しか触れない」です。技術的負債の記事で書いた通り、これは変動金利型の借金です。その人が異動した瞬間、金利が跳ね上がる。
しかも Web サイトの場合、更新を止めた瞬間にセキュリティの穴が開き始めるという性質があります。触れる人がいなくなった WordPress サイトは、放置された時限装置に近い。
「扱える人がいる」は、その人がいる間だけ有効な理由です。
「複雑な機能」は、いま何で作れるか
EC、会員制、予約と決済——たしかに WordPress のプラグインは層が厚い。ただ、これらの多くは、いまやノーコードツールの標準機能か、外部サービスの接続で足ります。
反論としてよく挙がるのが「外部サービスを積み上げると月額がかさむ」という点です。予約に数千円、フォームに数千円、メルマガに数千円——たしかに、WordPress のプラグインなら無料で済む範囲を超えることがあります。
でも、ここで思い出してください。その「無料」の原価は、保守です。
無料プラグインは、更新の義務と、脆弱性のリスクと、動かなくなったときの対応を、すべて自社が引き受けることで無料になっています。月額数千円のサービスは、その部分を提供元が持っている。
どちらが安いかは、保守にかかる手間を金額に換算して初めて比べられます。 プラグインの購入費だけを見て「無料だから安い」と判断すると、後で払うことになります。
「記事を大量に出す」なら、なおさら制御権が要る
コンテンツ SEO を本気でやるなら WordPress——これは長らく定説でした。管理画面から記事を投稿でき、SEO プラグインで細かく設定できる。
ただ、検索のされ方が変わりつつあります。AI が検索結果を要約したり、AI に直接質問して答えを得たりする使い方が広がるなかで、引用されやすい形で情報を出せているかが効いてきます。
ここで問題になるのが、出力される HTML をどこまで制御できるかです。
ページビルダーで組んだ WordPress サイトは、装飾用のタグで何重にも包まれた HTML を出力しがちです。見出しの階層や表の構造が、その中に埋もれる。構造化データもプラグイン任せになり、細かい調整が効かない。
静的サイトなら、見出しも、表も、構造化データも、1 行単位で自分で決められます。当ブログで記事に表を増やしているのも、この考えからです。
もちろん「WordPress だから引用されない」わけではありません。制御権がどちらにあるかという話です。記事を大量に出すほど、この差は積み上がります。
それでも WordPress を選ぶ、まっとうな理由
では、WordPress を選ぶ理由は無いのか。ひとつだけ、はっきりした理由があります。
移行コストです。
数百本の記事と、作り込んだカスタム構造を持つ既存サイトを、いま作り替えるのは、それ自体が大きな仕事です。そのコストが、得られるものに見合わない——これは正当な判断です。
ただし、その場合の正解は「そのまま放っておく」ではありません。**「保守を諦めない」**です。更新の担当と予算を決めて、実際に回す。移行しないと決めたなら、その分の責任を引き受ける必要があります。
言い換えれば、WordPress を選ぶ理由は「WordPress が優れているから」ではなく、「乗り換えるほどではないから」になった——というのが、私たちの見立てです。
私たちなら、どう選ぶか
正直に書きます。当社が新規のサイトで WordPress を第一候補にすることは、あまりありません。
代わりに、こう分けています。
社内に非エンジニアが多く、自分たちで更新したい → STUDIO などのノーコードを勧めます。WordPress の管理画面を覚えてもらうより、確実に速く、確実に定着します。更新の義務も負わなくて済みます。
そうでない場合 → 静的サイトを作って、更新のやり方を 30 分教える方を選びます。Vite と Git の操作は、必要な範囲に絞れば 30 分で伝わります。Git の記事で書いた通り、一人で履歴を残すだけなら覚えることはごくわずかです。
「WordPress の管理画面を覚える学習コスト」と「静的サイトの更新手順を覚える学習コスト」は、実はそれほど変わりません。 前者は覚えた先に更新の義務が待っていて、後者には待っていない。それだけの差です。
発注する前に、必ず聞いてほしいこと
方式が何であれ、これだけは確認してください。
「公開したあと、更新は誰がやりますか。費用はいくらですか」
WordPress で提案されたなら、保守契約の範囲と月額を。含まれていないなら、プラグインの更新は誰の責任になるのかを。
そして、もし「WordPress で作りましょう」としか言われなかったなら、なぜ他の選択肢ではないのかを聞いてみてください。答えられる会社と、そうでない会社があります。
まとめ
- WordPress が全ウェブサイトの 4 割を取ったのには正当な理由があった。ただしそれは、他に選択肢がなかった時代の話
- 2026 年、WordPress は**「簡単さ」でノーコードに、「速度と安全性」で静的サイトに**、両側から挟まれている
- 加えて WordPress 固有の負担が残る。毎週数十件のプラグイン脆弱性/更新のジレンマ/プラグインの堆積/保守費用
- 「誰でも更新できる」は、実際には理論上の話になっていることが多い
- よく聞く「WordPress のままでいい理由」の多くは、正常性バイアスか属人化か、保守コストを勘定に入れていない
- WordPress を選ぶまっとうな理由は、いまや「優れているから」ではなく「移行コストが見合わないから」。その場合は、保守を諦めないこと
- 発注前に必ず「公開後、更新は誰がやるのか。費用はいくらか」を確認する
「簡単以外で」の答えは、こうなります。その「簡単」も、もう WordPress の専売ではありません。
Acetyl:Tech は、運用体制から逆算して方式ごと提案する LP・Web 制作を行っています。 ノーコードが適していると判断すれば、そう申し上げます。詳しくは「LP・Web 制作」のページをご覧ください。
出典・参考
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